2025年11月、東京都世田谷区のスタートアップ・株式会社45.rが、AI翻訳イヤホン「Heara Air(ヒアラ・エアー)」を正式発表しました。
Heara Airは「聞く力を拡張する」をテーマにしたAI翻訳イヤホンで、
- 最大144言語に対応したリアルタイム翻訳
- 主要言語のオフライン翻訳
- 最短0.5秒とされる応答速度
- 最大98%というテキストベース検証での翻訳精度
といったスペックを打ち出しています。
販売はまずクラウドファンディング「CAMPFIRE」で行われ、2025年11月8日〜30日の期間で先行予約を受け付けました。
クラファンページでは、
「旅先でも、街でも、世界中の人とすぐ会話」
「Wi-Fiがなくても使えるオフライン翻訳」
といったコピーが掲げられ、海外旅行・出張・インバウンド対応などでの利用シーンが想定されています。
Heara Airの主な機能とスペック整理
144言語対応+オフライン翻訳
Heara Airは、最大144言語に対応したリアルタイム翻訳を搭載。
主要言語についてはオフラインでも翻訳が可能とされています。
- ネット環境が不安定な海外や地方でも、主要言語ならオフラインで利用できる
- マップ用にスマホ通信を温存しつつ、翻訳はイヤホン側に任せるといった使い方ができる
というのがポイントです。
応答速度と翻訳精度
公式情報では、
- 応答速度:最短0.5秒
- 翻訳精度:テキストベース検証で最大約98%
と説明されています。
もちろんこれは理想値に近い数字と考えたほうがよく、「常に0.5秒以内で、いつでも98%の精度」という意味ではなく、
- ネットワークや環境条件が整った状態で
- 想定された言語ペア・会話パターンではそのくらいの性能を目指している
くらいに捉えておくのがおだやかです。
イヤホンとしての基本性能
スペックとしては、一般的な完全ワイヤレスイヤホンに近い構成です。
- 接続:Bluetooth 5.3
- 通信距離:約10m
- 連続使用時間:約5時間(ケース併用で最大20時間)
- ノイズリダクション機能/デュアルマイク搭載
- USB Type-C充電(約1時間でフル充電)
日常の音楽用イヤホンとしても使えそうなバッテリーと機能感で、「普段は音楽、必要なときだけ翻訳」という使い方を想定していることが伝わってきます。
生活はどう変わる?シーン別のイメージ
ここからは、実際の生活に落とし込んでイメージしてみます。
海外旅行・出張:スマホを出さずに会話
たとえば、海外のカフェ。
- 片耳にHeara Airをつけたまま
- →店員さんの言葉が耳元で日本語に翻訳され
- →自分が話した日本語は相手の言語に変換されてスマホスピーカーから流れる
という流れが想定されています。
翻訳イヤホン全般については、
「スマホの翻訳アプリだと会話のテンポが途切れがち」
「いちいちスマホを取り出してパスコード解除やアプリ起動が必要」
という指摘が多く、専用デバイスのほうが「差し出してボタンを押すだけ」で会話を始めやすいという検証結果もあります。
イヤホン型なら「両手が空いたまま」「聞きながら移動できる」ので、道案内やショッピングなど移動を伴う場面には相性が良さそうです。
語学学習の“耳慣らし”用として
QAサイトでは、
日常会話を英語に変換して耳でリアルタイムに聞きながら勉強したい
という相談も複数見られます。
Heara Airのような翻訳イヤホンを「答え合わせ用」として使えば、
- 自分が話した日本語 → 英語訳を耳で聞く
- 実際の会話のテンポに近い形で、表現をインプットできる
といった“耳重視”の学習スタイルも組みやすくなります。
ただし、後述するように「丸投げ学習」になると力がつきにくいので、
- 自分でもざっくり英語を考えてから、
- 翻訳結果と比べて気付きをメモする
くらいの距離感で使うのがよさそうです。
インバウンド接客・イベント現場
Expo2025向けの翻訳イヤホン特集では、
- 海外パビリオンでのちょっとした会話
- 買い物時の「これください」を伝える場面
- 音声ガイドをハンズフリーで聞くシーン
など、翻訳イヤホンが活躍する場面が多く挙げられています。
Heara Airも同じように、
- 観光地でのインバウンド接客
- 国際展示会・イベントでの来場者対応
など、「一日中、いろんな言語が飛び交う現場」での利用がイメージされています。
SNSやレビューから見える“翻訳イヤホンの本音”
Heara Air自体はまだ出荷前のプロジェクトですが、翻訳イヤホンというカテゴリー全体には、いくつか共通する“モヤモヤ”が見えてきます。
1. 「翻訳が遅くて会話にならない」問題
海外通販サイトやAmazonのレビューでは、複数の翻訳イヤホンに対して
「翻訳が遅くてテンポのある会話にはついていけない」
「ゆっくり話せば使えるけど、雑談には厳しい」
といった声が目立ちます。
リアルタイム翻訳とはいえ、
- 早口
- 長い文
- 専門用語だらけ
になると、ワンテンポ遅れるケースはどうしても残りそうです。
2. 騒がしい場所での聞き取り不安
「タイ・ベトナムのゴーゴーバーのような騒がしい場所でも翻訳イヤホンは使えるか?」という質問も出ており、騒音環境での実用性を心配する声は根強いです。
一方で、Timekettleなどの最新モデルでは、
- 指向性ノイズ低減
- 骨伝導センサーとの併用
などで騒がしい場所でも音声を拾いやすくする工夫が進んでいることも紹介されています。
Heara Airもノイズリダクションとデュアルマイクを備えていますが、どの程度“騒がしさ”に耐えられるかは、実機レビューを待つ必要がありそうです。
3. 「アプリでよくない?」というコスパ感覚
「翻訳機は本当に必要?Google翻訳でよくない?」という疑問は、比較するにあたって必ず触れられるポイントです。
実際、
- 無料アプリ:お金はかからないが、操作が一手間
- 専用デバイス:初期費用はかかるが、
- 手早く会話を始められる
- スマホのバッテリーを温存できる
- ビジネスの場でも「翻訳専用機」のほうが見栄えが良い
といった違いがあり、「どちらがいい」というよりは、“自分の使い方に合うかどうか”で選ぶものになりつつあります。
Heara Airならではの強みと、他製品との違い
翻訳イヤホン市場は、TimekettleやPOCKETALKなど既存プレイヤーも多く、2025年時点でかなり成熟が進んでいます。
その中でHeara Airの特徴を整理すると、次のような軸が見えてきます。
1. 「聞く力」をテーマにしたブランド設計
Campfireのプロジェクトページでは、Heara Air Labが
- “聞く力を拡張する”
- AIと人が協調して会話を理解し合う
といったコンセプトで製品・特許開発を続けていることが書かれています。
将来的には、「Heara Speak」という次世代エンジンで、
- 構文・感情・文脈を理解した翻訳
- ユーザーが翻訳結果を確認・修正できる仕組み
を目指しているとのことで、「AIに全部任せる」のではなく“人間主導でAIを使いこなす”思想が打ち出されています。
2. イヤホン特化 vs “なんでもAIイヤホン”
最近は、viaim「OpenNote」のように、
- 会議の録音
- 自動文字起こし・要約
- ToDoリスト生成
までこなす“会議アシスタントAIイヤホン”も登場しています。
それに対してHeara Airは、現時点では
- 翻訳と会話体験にフォーカスしたAIイヤホン
という立ち位置です。
「会議録音+議事録AI」が欲しい人はOpenNote系、
「海外旅行やインバウンド接客で使いたい人」はHeara Airのような翻訳特化型
といったふうに、用途で選び分けるイメージに近いです。
3. オフライン翻訳と“旅向き”仕様
Timekettleの最新機やExpo向けガイドも、
- オフライン翻訳の有無
- 対応言語数
- バッテリー時間
を「旅行用ガジェットとしての重要ポイント」として挙げています。
Heara Airも、
- 主要言語のオフライン対応
- ケース込み最大20時間のバッテリー
といった点で、旅・出張で“持ち出しやすい翻訳イヤホン”を強く意識した設計になっているといえそうです。
注意点・限界もきちんと押さえておきたい
通信環境とオフライン言語の範囲
オフライン対応と言っても、
- 対応するのは“主要言語のみ”(例:日⇔英・中・韓などに集中しがち)
- オフライン利用には事前ダウンロードが必要な製品もある
というのが翻訳デバイス全般の傾向です。
Heara Airも「144言語対応・オフライン対応」とありますが、どの言語ペアがオフラインで使えるのかは、購入前に公式ページやマニュアルで確認したほうが安心です。
翻訳精度はあくまで“サポート役”
プロの翻訳者による検証では、AI翻訳はかなり実用的になってきた一方で、
- 固有名詞
- 単位・数字
- 文脈の取り違い
などで誤訳が起きやすいことも指摘されています。
そのため、
- 細かい契約
- 法律・医療・重大なビジネス判断
の場面は、AI翻訳イヤホン“だけ”に頼るよりも、人間の通訳や専門家の確認と組み合わせるほうが安全です。
料金体系と“サブスク型AI”の広がり
翻訳イヤホンの中には、
- 本体価格は控えめだが、高精度翻訳エンジンの利用に月額料金がかかる
といったモデルも増えています。
Heara Airについては、プレスリリースにはサブスクリプションに関する具体的な記述は見当たりませんでしたが、AIサービスはアップデートで料金体系が変わることもあります。
「本体価格+ランニングコスト」までトータルで見ておくと、後で混乱しにくくなります。
どんな人に向いているガジェット?
ここまでを踏まえると、Heara AirのようなAI翻訳イヤホンが“特にハマりそうな人”はこんなイメージです。
- 年に何度か海外旅行・海外出張に行く
- インバウンド客の多い店舗や観光地で働いている
- Expoや国際展示会など、多言語の来場者が多いイベントに関わる
- スマホの翻訳アプリを使ってみたが、
- 毎回取り出して操作するのが面倒
- 会話が中断される感じがストレス
- 「語学は勉強しているけど、まだ一人で全部話すのは不安。翻訳イヤホンが“保険”になってくれると心強い」と思う人
逆に、
- たまにネットショッピングで英語サイトを見る程度
- 海外旅行もほとんど行かない
- 同じ相手とじっくり文章でやりとりできれば十分
という人にとっては、Google翻訳などの無料アプリで事足りる場面も多いはずです。
“AI×生活改善”の視点:どこがラクになる?
翻訳イヤホンの一番の価値は、「言語の不安で止まっていた行動が、少し軽く動き出す」ところにあります。
具体的には、
- 毎回スマホを取り出して、翻訳アプリを開いて…という
“ちょっとした手間”が省ける(時短・行動のスムーズさ) - 「聞き取れなかったらどうしよう」という不安が、
耳元の翻訳で少し和らぐ - 旅の準備リストから「現地の言語フレーズ帳」「分厚いガイドブック」が外せる(荷物・情報の整理)
など、生活のストレスポイントをじわっと下げる方向に効いてくるガジェットです。
「完璧に訳してくれる魔法の耳」ではなく、“会話のハードルを1段分くらい下げてくれるツール”として捉えると、ちょうどいい距離感で付き合えそうです。
冒頭の“モヤモヤ”への答え
最後に、冒頭で拾った生活者の疑問に、それぞれ整理して答えてみます。
Q1. 翻訳イヤホンって、本当に会話のテンポについていける?
- Heara Airは「0.5秒応答」をうたっていますが、実際には話し方や通信状況によって前後するはずです。
- 雑談レベルなら十分役立つ場面も多い一方で、早口のディスカッションや専門用語が飛び交う会議では、1テンポ遅れることを前提にしておくと、ストレスが少なくなります。
結論:
「ゆっくりめの会話なら十分実用的な場面があるが、人間の同時通訳と同じテンポを期待しないほうが安心」です。
Q2. 騒がしい場所や海外の路上でも使える?
- ノイズリダクションや指向性マイク付きの翻訳イヤホンは増えており、Heara Airもその一つです。
- ただ、「クラブ並みにうるさい場所」「風の強い屋外」などでは、どの製品でも聞き取り精度が落ちやすいのが現状です。
結論:「カフェ・レストラン・駅構内くらいまでなら、ある程度頼りにできる。それ以上の騒音環境では“使えたらラッキー”くらいの期待値で。」
Q3. 語学学習にも使える?
- 自分の日本語を英語に変換して聞き直す、という使い方は、“耳慣らし”や表現の幅を増やすのに役立ちます。
- 一方で、「全部翻訳イヤホン任せ」にすると、自分で文を組み立てる力は育ちにくいです。
結論:「自分でもざっくり英文を考えたうえで、翻訳イヤホンの答えと“差分を見る”使い方なら、学習のサポート役として相性がいい」という具合です。
Q4. 翻訳アプリで十分じゃないの?
- 無料アプリはコストゼロで優秀ですが、
「毎回スマホを出すひと手間」「会話のテンポが止まりがち」という弱点があります。 - 翻訳イヤホンは、
- 両手が空いたまま
- 目線を相手に向けたまま
会話を続けやすいのが、最大の違いです。
結論:「“数年に1回の海外旅行”ならアプリで十分。“毎月のように外国語で会話する”なら、翻訳イヤホンを検討する価値が出てくる」といった棲み分けになりそうです。
まとめ:AI翻訳イヤホンは“旅行ストレスを軽くするイヤホン”になれるか
Heara Airは、
- 144言語対応
- 主要言語のオフライン翻訳
- イヤホンとしても使えるデザイン
という組み合わせで、「翻訳専用機」と「普段のワイヤレスイヤホン」の間を狙ったAIガジェットです。
翻訳イヤホン自体には、
- 速度や精度への不安
- 騒音環境での限界
- 「アプリでよくない?」というコスパ感覚
といった課題も残っていますが、「会話のハードルを1段下げてくれる耳の保険」として考えると、海外旅行・インバウンド接客・国際イベントなど、生活の一部を少しラクにしてくれる存在になりそうです。

